1. 脳のメカニズムと認知症発症 |
加齢とともに働きが衰えていく性質を持っている前頭葉は、高齢者といわれる年代になると急速に働きが衰えていくようになります。足腰と同様、前頭葉も使わなければ、廃用性萎縮を起こして老化を加速させます。高齢者が病気や怪我や定年退職などをきっかけにして、家に引きこもり、趣味や遊びや人付き合いもなく運動もしない生活を続けていくと認知症(アルツハイマー型認知症)が始まるのです。このようなナイナイ尽くしの生活では、左脳・右脳・運動の脳から前頭葉に来る情報が極端に減少するだけでなく、「状況を判断して自分の行動を決定する」という前頭葉のもっとも大切な機能を発揮する機会も極端に減っていくことになるからです。生活を変えないで放置すれば、前頭葉の廃用性萎縮はますます進行し、認知症の症状は進行するばかりです。 |
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2. 人間らしく生きるために必要な前頭葉 |
脳の各部分(運動野・左脳・右脳)はそれぞれ役割を分担し、受け入れた情報を前頭葉という統括部門に送ります。認知症は、この前頭葉の働きが異常なレベルに低下することから始まります。前頭葉は、人間が人間らしくあるための、自分が自分らしくあるための脳の最高次機能、脳の司令塔です。刻々に送られてくる情報を総合判断し、何をどうするかを決定し、指示する場所なのです。前頭葉は、ほとんど人間だけが持ち、成長に伴って充実していく機能で、文化・文明の推進力となってきました。 生きていくだけなら動物と同じく脳の後半領域だけでも足りますが、創造・計画・工夫・推理・機転・注意分配などの高度の働きには、前頭葉の活躍が欠かせません。 |
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3. 脳を使わない生活に入るきっかけ |
脳を使わないナイナイ尽くしの単調な生活に入るきっかけは、人によっていろいろです。とくに、周りから見れば、たいしたことではないように見えても、本人にとっては大きな痛手になることが、きっかけとなる場合もあることに注意が必要です。
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きっかけ(その1): |
目標を持ってがんばって生きようという意欲を支え、生きがいとなっていた生活がなくなってしまうこと左脳・右脳・運動領域を使う生活が、以前に比べ極端に減ってしまいます。
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きっかけ(その2): |
目標を持ってがんばって生きようとする意欲を、なくしてしまうような状況(心配事)が発生すること左脳・右脳・運動領域の使い方は、表面的には変化がない時もあります。
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きっかけの具体例: |
・仕事をやめる
仕事一筋の人の定年退職
仕事の第一線を退くこと
息子に代を譲ること
嫁に家事を譲ること、孫が手離れること
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・楽しみごとがなくなる
趣味、遊びの集りや隣人との茶のみ会の中止
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・別れが起きる (その別れが、どのくらい生きる意欲を無くさせるかがポイント)
配偶者の死亡
転居や死亡による友人との別れ
ペットの死亡
かわいがっていた孫が入学や就職や結婚で家を出ること
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・入院や安静状態が続くような病気や怪我
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・腰痛、膝痛、視力や聴力障害の進行
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・家庭内に問題が起きる
息子のリストラ
サラ金問題
離婚騒動
孫の不登校や非行
家庭の不和など
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注意すべきことは、さびしい生活は脳の老化を加速させるということです。
三世代同居をしていても、子や孫との交流がなく、自室で一人でテレビを見て
過ごすしかないような場合は、一人暮らしではないからさびしくないのではなく、
意欲的に生活している一人暮らしの場合よりもさびしいといえます。
このような状態のとき、脳の老化は加速されることに留意しなくてはいけません。
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